院長先生のコラム

動脈硬化

動脈硬化とは文字通り動脈が硬くなることです。動脈硬化が起こると動脈の内側にプラークと呼ばれる脂肪の塊(かたまり)ができます。このプラークが破裂すると血栓という血液の塊が作られますが、この血栓が血管の内部にできると血管を詰まらせてしまいます(図9参照)。血管が詰まると、その先の組織(細胞の集まりと考えてください)に酸素も栄養も行き届かなくなります。その結果、その先の組織は死んでしまいます。これを「梗塞(こうそく)」といいます。脳梗塞や心筋梗塞の「梗塞」です。つまり脳梗塞は脳の血管が詰まり、心筋梗塞は心臓の血管が詰まるのです(注:すべての梗塞の原因が血栓というわけではありません)。

図9 動脈硬化と「梗塞」の関係

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脳梗塞の症状は様々です。運動神経への命令を出す場所の梗塞では麻痺が起こります。小脳の梗塞ではバランスが悪くなったりめまいが起こったりします。言語中枢の梗塞では失語症(言葉の意味が理解できなくなったり、言葉が出なくなったりします)が起こります。その他にもいろいろな症状が起こる可能性があります。最近では血栓を溶かす治療も行われていますが、なかなか脳梗塞発症前の状態まで戻ることは少ないようです。しかもこの治療には時間的制約と患者さんの条件の制限があり、治療を受けられるのはごく一部の患者さんに限られてしまいます。したがって脳梗塞の治療は主に「これ以上悪くならないこと」が目標になります

脳梗塞の原因としては動脈硬化以外では心房細動が知られています。心房細動は不整脈のひとつです。心房細動では心臓が不規則に拍動するのですが、このときに心臓の内部で血栓が作られることがあります。この血栓が脳の血管で詰まることがあります(脳塞栓ともいいます)。長嶋茂雄さんの脳梗塞は心房細動が原因だそうです。その他にラクナ梗塞という脳の小さな血管が詰まるタイプの脳梗塞があります(血栓とは無関係に詰まります)。ラクナ梗塞の原因は高血圧と考えられています。

 

脳梗塞

麻痺が代表的な症状だが、めまいや失語(言葉が出なくなる)も起こる。脳梗塞の原因は①動脈硬化、②心房細動、③高血圧(ラクナ梗塞)3つ。

 

心筋梗塞の原因はほとんどが動脈硬化です(もちろん例外はあります)。脳梗塞の症状は様々ですが、心筋梗塞の症状はそんなに多くありません。心臓の血管が詰まると心臓の筋肉(心臓はほとんど筋肉でできています)が死んでしまうので、胸が痛くなります圧迫されるように感じる人もいます。胸の痛みだけでなく、左肩やのどの痛みも感じる人もいます。また胸の痛みはなく、左肩やのどの痛みだけを訴える人もいます。なかなか難しいですよね。最終的な診断は医師の仕事ですが、心筋梗塞「らしい症状」と「らしくない症状」があるので、それだけ挙げておきます。胸でも肩でもよいのですが、動かしたり押さえたりすることにより強くなる痛みは心筋梗塞らしくありません。このような痛みは骨や筋肉の痛みであることが多いのです。また心筋梗塞の痛みは長時間続きます。秒単位の痛みで心筋梗塞ということはほとんどありませんが、分単位の痛みは狭心症の可能性があります(秒単位の狭心症も稀です)。

心筋梗塞による胸の痛みですが、誰もが感じるわけではありません。高齢者、女性、糖尿病の人は心筋梗塞の痛みを感じないことがあります。偶然に検査した心電図で過去の心筋梗塞が初めて分かるということも珍しくはありません。

狭心症は心筋梗塞の一歩手前の状態です。動脈硬化があるので血管の内側は狭くなっており、血流(行き届く血液)は少なくなっています。その先の組織は常に酸素不足の状態にあります。この状態で身体活動を行うと、心臓の組織が必要とする酸素が行き届かなくなり、胸が痛くなります。これが狭心症の仕組みです。狭心症の痛みが起こると、ほとんどの人は安静にします。安静にすると組織が必要とする酸素の量が減るので、次第に痛みはなくなります。狭心症の症状は分単位です。20分以上続く胸の痛みの場合は心筋梗塞の可能性があります。

狭心症の原因も動脈硬化だけではありません。特に日本人では異型狭心症というタイプの狭心症がよくみられます。異型狭心症の原因は動脈硬化ではなく、血管のれん縮(血管が自然に縮むこと)です。血管のれん縮は明け方に起こりやすく、安静にしているのに胸が痛くなります。動脈硬化による狭心症は身体活動時に起こりやすいので、診断はそれほど難しくありません(もちろん循環器内科の受診が必要ですが)。異型狭心症の治療は内服薬と予防に尽きます。

心筋梗塞に話を戻しましょう。心筋梗塞は胸の痛みを起こしますが、問題はこれだけではありません。胸の痛みは心臓の筋肉が死んでしまうことによって起こります。心臓の筋肉が死んでしまうと心臓の働きが悪くなります。これを心不全といいます。心不全になると、以前と同じような生活はできなくなります。心臓が耐えられなくなるのです。心不全も大きな問題ですが、本当に怖いのは「致死性」の不整脈です。「致死性」とは文字通り「死に至らしめる」という意味です。実際には心室細動や心室粗動という不整脈ですが、いずれも心臓の筋肉は動かなくなってしまいます。心臓の筋肉が動かなくなると、呼吸も止まってしまいます。心臓も呼吸も止まると、人間は数秒~数分で死んでしまいます。心筋梗塞は一瞬にして生命を奪ってしまうこともあるのです。

心筋梗塞や狭心症の治療としては血管内治療とバイパス手術があります。血管内治療では血管の中に細い管(カテーテルといいます)を入れ、血管を広げる治療を行います。血管の中で風船を膨らませたり、広げた血管をステント(網目状の内張り)で補強したりします。バイパス手術は外科手術です。比較的動脈硬化の影響を受けていない血管をバイパス(別経路)として用います。どちらも治療後には血栓を作りにくくする薬剤の内服が必要ですが、血糖値や血圧を良い状態に保つことも同じくらい重要になります。

 

心筋梗塞と狭心症

心筋梗塞の代表的な症状は胸の痛みだが、咽喉や左肩の痛みのこともある。狭心症の症状は分単位持続する胸の痛み。心筋梗塞による不整脈は突然死の原因となる。

 

閉塞性動脈硬化症(ASOともいいます)という病気があります。簡単にいうと「足の狭心症」です。足の付け根にある動脈が狭くなります。歩くと足はたくさんの酸素を必要としますが、足の付け根の動脈が狭くなると十分な血液を送り出せず、十分な酸素を送り届けることができなくなります。すると歩くことによって足が痛むようになります。足が痛くなると、歩くのを止めます。歩くのを止めると足の痛みもなくなります。狭心症と全く同じ症状ですが、足の場合は医学的には間欠性跛行といいます。

間欠性跛行の原因は2つです。ひとつは閉塞性動脈硬化症、もうひとつは脊柱管狭窄症です。閉塞性動脈硬化症では足の付け根の血管が狭くなっているために、手の血圧に比べて足の血圧が低くなることが多いようです。脊柱管狭窄症ではこのような所見はみられません。また脊柱管狭窄症では間欠性跛行は起こりますが、自転車の運転は平気なことが多いようです。閉塞性動脈硬化症の場合は自転車の運転でも足の痛みが起こります。

閉塞性動脈硬化症が極まると「足の心筋梗塞」が起こってしまいます。足に血液が流れなくなるので、足自体が死んでしまいます。足が死んでしまう(壊死といいます)と歩けなくなるのはもちろんですが、生命にかかわることもあります。壊死した組織から毒性のある物質が放出されるからです。救命のために足を切断することもあります(足の切断の原因は動脈硬化だけでなく、抵抗力の低下なども関係しています。

閉塞性動脈硬化症の治療は狭心症や心筋梗塞の治療と似ています。血栓を作りにくくする内服や血管内治療、バイパス手術を病状に応じて行います。

 

閉塞性動脈硬化症(ASO)

足の狭心症。症状は間欠性跛行(歩くと足が痛くなり、休むと痛みがなくなる)

 

ここまでは動脈硬化によって起こる病気をみてきました。糖尿病は動脈硬化の原因になりますが、糖尿病の治療を徹底すれば動脈硬化は予防できるのでしょうか。残念ながら違います。動脈硬化の原因は糖尿病だけではないのです。

動脈硬化の主な原因を挙げてみます。男性、加齢、糖尿病、脂質異常症、高血圧、喫煙などです。男性は女性と比べて圧倒的に動脈硬化が進行します。女性ホルモンが動脈硬化の予防に関係しているようです。加齢については言うまでもないでしょう。糖尿病は動脈硬化の原因ですが、高血糖は血管にストレスを与えています。血糖値の高低の差が大きいと、さらにストレスは大きくなります。

脂質異常症も動脈硬化の原因です。高脂血症とも呼ばれることもありましたが、現在では脂質異常症と呼ばれています。なぜでしょうか。脂質の中には善玉と悪玉があるからです。善玉はHDLコレステロールといいます。HDLコレステロールには動脈硬化を防ぐ効果があります。悪玉はLDLコレステロールと中性脂肪です。これらは動脈硬化に悪影響を与えます。ところが総コレステロールとはHDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪を足したものです(単純に足したものではありません)。ということは、総コレステロールが高い人には、善玉が高い人、善玉も悪玉も高い人、悪玉が高い人の3種類がいることが予想できます。このうち善玉だけが高い人は動脈硬化のリスクは高くなく、治療の対象にもなりません。高脂血症と呼ばなくなった理由はここにあります。

高血圧は直接的に血管にストレスを与えています。血圧は血管内部の圧力(押す力)です。血圧が高いと、それだけ大きな力で血管の内部を押していることになります。ちなみに高血圧の原因には、塩分過多、肥満、運動不足、喫煙などがあります

喫煙は高血圧の原因でもありますが、直接動脈硬化の原因にもなります。タバコの煙に含まれている一酸化炭素は血管を傷付けますが、傷付いた血管が修復される際に動脈硬化が起こります。またタバコはHDLコレステロール(善玉)を減らし、LDLコレステロール(悪玉)を増やします。これも動脈硬化を悪化させることになります。

動脈硬化を進行させないためには、糖尿病の治療だけではなく、高血圧、脂質異常症の治療や禁煙も必要なのです。動脈硬化の話はこれで終わりです。

 

動脈硬化の原因

糖尿病(特に血糖値の高低の差)、男性、加齢、脂質異常症、高血圧、喫煙

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